Written by ART Driven Tokyo

polyester film 14′ 6″ x 29′ 1-1/2″ x 2′ 5-1/4″ (442 cm x 887.7 cm x 74.3 cm), overall installed No. 37893
© Tara Donovan, courtesy Pace Gallery
日用品に命と美を吹き込む
大量生産された日用品が、まるで生き物のように変貌する──そんな驚異的な体験が、いま東京で味わえます。ニューヨーク・クイーンズ生まれの現代アーティスト、タラ・ドノヴァンによる東京初個展が、2025年7月3日まで、東京・麻布台ヒルズのPACEギャラリーで開催されています。ドノヴァンは、日常的な素材を驚くべきスケールで再構築し、観る者の知覚に揺さぶりをかける作品で知られています。
本展は、過去20年にわたる代表作の彫刻やインスタレーションに加え、今回のために特別に制作された新作ドローイングも含む、円熟期にある作家の「集大成」と呼ぶにふさわしい構成です。

Mylar and hot glue, 47″ x 41″ x 38-1/2″ (119.4 cm x104.1 cm x 97.8 cm)No. 54584
© Tara Donovan, courtesy Pace Gallery

CDs, 102-1/4″ × 12″ × 12″ (259.7 cm× 30.5 cm × 30.5 cm)No. 91443
© Tara Donovan, courtesy Pace Gallery
ドノヴァンの作品の特徴は、なんといっても素材の選び方とその変容のさせ方にあります。彼女は、私たちが普段なんとなく目にしている日用品──たとえばボタン、ストロー、そして今回特に注目されているCD-ROMなど──を大量に収集し、並べたり積み上げたりすることで、まったく新しい視覚体験を作り出します。
そのプロセスは、ポスト・ミニマリズムの文脈に連なりつつ、カリフォルニアのライト・アンド・スペース運動にも通じる「光の芸術」を感じさせます。見る角度、光の当たり方、観る人の移動によって表情を変える彼女の作品は、ただ鑑賞するだけでなく、「作品と共に生きる」ような感覚を呼び起こします。
話題作《戦略 IX(2024)》──CD-ROMが奏でる光の建築
今回の展示でひときわ目を引くのが、《戦略 IX(2024)》(すぐ上の写真)です。高さ約2.6メートルにおよぶこの構造体は、拾い集めたCD-ROMを積み上げて構成された縦長の彫刻。コンクリート製の台座の上にそびえ立ち、時間帯や見る角度によって異なる光の反射を見せてくれます。
CDという、いまや過去のテクノロジーとなりつつある素材を使って、ここまで魅力的な作品を生み出せるのは、まさに「天才」と呼ばれる所以。2008年にマッカーサー財団の「天才賞」を受賞した実力は、こうした大胆かつ繊細なアップサイクル作品からも明らかです。
この作品は、空間を歩く鑑賞者の存在に応答するように変化し、あたかも呼吸する建築物のようです。
さらに見逃せないのが、今回のために制作された2025年のピンドローイング作品です。ドノヴァンのアプローチは一貫しています。それは、「小さなものを積み重ねることで、大きな秩序やパターンが生まれる」ということ。知覚の限界を問う挑戦的な試みでありながら、どこか詩的で、瞑想的でもあるのが彼女の作品の魅力です。
タラ・ドノヴァンは、1990年代からキャリアをスタートし、着実に評価を高めてきたアーティストです。その作品は、素材の選択と再構成の巧みさだけでなく、「私たちの世界の見え方」を根底から問い直す力を持っています。お見逃しなく!
展覧会情報
タイトル:タラ・ドノヴァン展
会期:2025年5月17日(土)〜2025年7月3日(木)
会場:Pace東京 東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA 1F, 2F
時間:11:00~20:00
休廊:月曜日
入場無料