Written by ART Driven Tokyo

Installation view from new age entropy
Courtesy of the artist and Sho+1

占星術師のキュレーションによる「根源的な本質の追求、ミステリアスな真実の探求」をテーマにした展覧会とは、どんなものなのだろう? しかも、ギャラリーのオーナーは、アンディ・ウォーホルやジャン・ミシェル=バスキアと交流をした経験を持ち、彼らを日本に専門的に紹介してきた高名なアートディーラー。大家を扱うだけでなく、若手の育成にも熱心と聞けば、期待は募る。

上野の不忍池を南にオフィスビル街を進むと、路面にガラス張りの建物の中から、ロブスターのキャラクターがくつろいでいるのが伺えた。出迎えてくれたロブスターはフィリップ・コルバートの作品だ。

ここは現代アートギャラリー、Sho+1。今回の展示は「new age entropy」(2023年12月23日まで)、新世代アーティストの4人のグループ展だ。

神秘性をテーマにした美術史上のアーティストといえば、無意識の世界を表現したオディロン・ルドンや、不思議なイメージを追求したルネ・マグリットが思い浮かぶ。さあ、この時代の日本の若手作家は、どんな世界を見せてくれるのだろうか。

Click here for the article in English.

曖昧な境界、不確かな夢、無意識の世界。ルドンやマグリットのような

Installation view from new age entropy
Courtesy of the artist and Sho+1
Installation view from new age entropy
Courtesy of the artist and Sho+1

武蔵美術大学院在学中の大塚澪音(Reon Otsuka)は、サテンにインクをにじませる手法で、独自の神秘性と、人間の複雑な本質を表現することに成功した。大塚は、インクをにじませるスピードやたらし方をかなり実験して、この手法を確立したのではないかと推察する。そして、にじみは、ある程度の制御はできるだろうが、やはり、偶発性が入る。そこがおもしろい。1950年代後半のアメリカで発展した「ポスト・ペインタリー・アブストラクション」に代表される偶発的なステイニング技法を採用した。

インクのにじみによる境界線の曖昧さは、人と人、要素と要素の複雑な関係性を浮かび上がらせる。にじみによって歪んだ輪郭は、人間の持つ暴力的な要素を引き立てると同時に、優しさや共感性などの相反する要素も表現している。

想像力をかきたてるような絵柄だ。心が動く。観客に「何だろう?」と思わせる強い力がああり、目をひきつける。人物にかぶさる金網のように見えるものは、何らかのフィルターか。構図にレイヤーが加わり、誰しもが共感できる精神的な領域を探求している。

オディロン・ルドン(1840-1916)は、石版画集「夢の中で」において、不確かな夢や無意識の世界に踏み込んだ作品を多く発表した。ルネ・マグリット(1898-1967)は、空中に浮かぶ岩、鳥の形に切り抜かれた青空、指の生えた靴といった不可思議な作品によって、世界が本来持っている神秘(不思議)を描いた。

今回の展覧会タイトルにあるニューエイジという言葉は、新時代に移行するという西洋占星術の思想に基づいているという。キュレーターは、占星術師の小松巧弥。物質社会と情報過多(脳内エントロピーの増大)というこの時代を、占星術師が考察すると、こうした切り口になるのだろう。

Installation view from new age entropy
Courtesy of the artist and Sho+1

作家の力を超えたところに、エネルギーが生まれる

Installation view from new age entropy
Courtesy of the artist and Sho+1

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Courtesy of the artist and Sho+1

1秒天使9(1 Second Angel 9)は、自らをAIと名乗る正体不明のアーティスト。

自動筆記的な要素がある印象だ。そのときリズムの流れで線が出てくるのだろうか。すべてが自ら意図したものではないだろう。潜在的なもの、無意識下のもの。黒い悪魔は、あまり描きこまず、いいところで止めている。観客が想像したり、足したりすることができる余地があっていい。曖昧性を許容すると、いろいろな視点が入ってきて、自分の力を超えた神秘性が生まれる。

自由奔放で、力強い筆致、エネルギッシュだ。パワーを感じる。気持ちをぶつけたような勢いと勇気がある。

Installation view from new age entropy
Courtesy of the artist and Sho+1

不思議の国のアリスのようなレトロポップ

Installation view from new age entropy
Courtesy of the artist and Sho+1
Installation view from new age entropy
Courtesy of the artist and Sho+1

眞喜志木の実(Konomi Makishi)は、日本のポップカルチャーからインスパイアされ、女性を主要なテーマにしている。彼女のレトロポップは、不思議な国のアリスを現代版にしたような雰囲気があると思う。不思議な動物、奇怪な食べ物。

カラフルでフェミニンな雰囲気がいい。毛糸を使った作品は、毛糸という素材の特性による制限がかかる側面がある。やはり、ここでも、作家の力が及ばないところに、魔法のようなおもしろみを感じた。

ただそこにある幻想の美は、光を大事にすることから

七菜乃(nananano、写真上段右)は、コンテンポラリーフォトグラファーで、自身、モデルでもある。「裸体に良し悪しはなく、ただそこにある美しさを捉えたい」と作家は言う。哀愁に満ちた女体の全体性が表現されている。

フィルムで撮影し、いわゆる「オーバー」気味に白く飛んで、ぼやけた感じに仕上げている。光の捉え方が独特で、光を大事にするアーティストのようだ。そこが幻想的だ。光の拡散とムラが味であり、美しい。

写真家・植田正治のような、「植田調だね」と言われることがあるという。植田は、鳥取砂丘などに人物を「配置」して撮る。七菜乃は、「配置」はせず、モデルに自由に動いてもらって、瞬間を撮る。動く人間を撮るということは、作家がコントロールし得ない偶然性が多分にあるということであり、ここでも、自分を超えたところにある力が加わっている。そこにミステリアスが生まれるのではないか。

AIやNFTなど、アートの文脈に様々な要素が加わっている今、だれもがアーティストになれるとも言われるこの時代に、芸術家としての才能を発揮するには、何が必要か。それは、ルドンやマグリットも模索したような、複雑な人間の本質を探るエネルギーであり、作家の力をも超える人間の不思議、世界の不思議を探求することなのではないか。それらがポップに表現されているこの展覧会を見て、若い創造力に心が動いた。

展覧会概要

タイトル:1秒天使9、大塚澪音、七菜乃、眞喜志木の実 グループ展「new age entropy」

会期:2023年11月25日(土) – 12月23日(土) 会期終了

場所:Sho+1、〒110-0005 東京都台東区上野1−4−8 上野横山ビル1F

アクセス: 東京メトロ千代田線 湯島駅 出口6、東京メトロ銀座線 末広町駅 出口4

時 間:12:00 – 18:00 / 日・月・祝 休廊

入場無料