Written by ART Driven Tokyo

EU27か国の情報が瞬時に

2024 年 6 月 13 日、京都市と京都芸術センターが運営するアーティスト・イン・レジデンス(AIR)の総合サイト「AIR_J」に、EU 加盟 27 カ国のアーティスト・イン・レジデンス情報を掲載したセクション「AIR@EU」が開設された。駐日 EU 代表部の日本における文化交流プロジェクトの一環で、「AIR_J」の協力を得て実現した。

「AIR@EU」では、キーワードによる検索で、EU 各地の AIR を横断的に調べることができる。EU の AIR 最新事情に関する記事も公開していく。これまで日本語で紹介される機会の少なかった EUのAIR情報を容易に入手することができる。日本と EU のアーティストの交流をさらに活発にし、日本のアーティストが世界で活躍するための一助となることを狙ったものだ。

AIRには、費用に助成があるものから、利用料を払うものまで、さまざまな形態がある。AIR_Jは、国別に検索できるほか、「渡航費助成」「制作スタジオ」「各種助成・人的サポート」「滞在施設」「成果発表・オープンスタジオ」のキーワードで絞り込める。各プログラムの概要が、日本語で解説してある。

EU に滞在経験がある日本のアーティストやアート関係者とのオンラインイベントも開催される。EU のアーティスト・イン・レジデンスについて、経験豊富なアーティストやアート関係者の生の声が聞けるほか、ヨーロッパの芸術文化シーンの現状や最近のトレンドについての情報も得られる。収録した内容は、イベント終了後に「AIR_J」のウェブサイトにアーカイブされ、閲覧できるようになる予定だ。(企画協力:art for all)


●アーティスト・イン・レジデンスについて知る
日時:2024 年 7 月 26 日(金)20:00-22:00 オンライン(Zoom ウェビナー)
登壇:ハイジ・ヴォーゲル(TransArtists コーディネーター、アーティスト/オランダ)、
勝冶真美(AIR_J コーディネーター)、石井潤一郎(ICA 京都、アーティスト)
司会:花岡美優(アーティスト)、潘逸舟(アーティスト)
*日英逐次通訳
➢ ウェビナー参加はこちら:https://euin.jp/AIRevent0726

● アーティストとしてヨーロッパで仕事や生活をする
日時:2024 年 8 月末予定 オンライン(Zoom ウェビナー)

ヴィラ・メディチが元祖、異国で得る表現の変化

AIRの歴史は、メディチ家のローマの別荘ヴィラ・メディチに始まるとされる。在ローマ・フランス・アカデミーがヴィラ・メディチに移された後、ローマ賞を得た若い芸術家たちが滞在して見聞を広め、制作活動を行った。建築のシャルル・ガルニエ、音楽のドビュッシーらが受賞した。

現在のAIRのシステムの先駆者とされるのは、1970年代に設立されたドイツ・ベルリンのクンストラーハウス・ベタ二エンだ。アーティストが様々な国に移動し、現地と交流することで制作過程が豊かになり、芸術と社会が対話することを目的とする。

海外のAIRに挑戦する日本人は、アクティブな中国人、韓国人に比べて少ない。言葉の壁もあるだろうし、初めての土地で生活しながら制作するAIRには、困難も伴うだろう。ドビュッシーも、だいぶ苦労したようだ。しかし、異国の刺激によって、表現にポジティブな変化が得られることもある。

カナダに3か月、「続ける力」を得た

アーティストの中村亮一さんは、積極的に海外に挑戦している。2009年、27歳のときに、カナダのトロントに3カ月滞在した。美術学校Toronto Scool of Art が運営するAIRだった。24歳から33歳のアーティストが集まっていた。アメリカ人3人と中村さんだ。スタジオは用意され、キュレーターが1人ついていて、トロントの主要なギャラリーへのツアーがあり、ミーティングができた。展覧会も行うことができた。選考では計画書を出したが、現場での変更には寛容で、比較的自由に活動できたという。当時はAIRの情報が得られるサイトは少なく、AIRの世界ネットワークであるRes Artisで見つけた。

a study of identity
アルミ板、銅板、真鍮板にフォトエマルジョン
178 x 127mm
2015 – 2024
写真:作家提供

中村さんは20代前半のときに、ベルリンで4年間活動して以来、海外での制作を行ってきた。ポーラ美術振興財団の奨学金でニューヨークとロサンゼルスに滞在したこともある。第二次世界大戦時の日系アメリカ人たちの調査をし、共存とは何かを現代アートで表現した(上の写真)。中村さんは「外国に滞在し、日本を外から見ることによって、作品も変化します」と話す。

a study of identity
キャンバスにミクスドメディア
2023
写真:作家提供

現在は日本で活動しており、抽象画に箔を貼った作品に取り組んでいる(上の写真)。「日本にいるからこそ生み出せるものもあります」。また、「現在の日本のアート市場のスケールを考えると、日本人アーティストは、世界を視野に入れる必要があると思います。そのためには、奨学金や、AIR、コンペなどに挑戦していくのがいいと思う」と話す。

海外アーティストに人気、日本のAIR

AIR_Jでは、日本国内のAIRも検索できる。いま、日本のAIRは、海外のアーティストに大人気だ。福岡県糸島市のStudio Kuraはそのひとつで、これまでに700名以上のアーティストがレジデンスプログラムに参加した。アーティストは糸島の美しい自然環境に囲まれながら、自身の創作活動に集中することができ、また、地元のイベントやワークショップに参加することで、日本文化を体験し、地域住民と交流することができる。

アーティストにとって、画材や機材の選択肢が多いことは、大きな魅力だ。施設内には「ファブラボ糸島」があり、Shopbotやレーザーカッター、3Dプリンターなどの最新のデジタルファブリケーションツールを利用することができる。海外のアーティストは、Studio Kuraでの滞在を通じて、福岡・糸島の独特な文化や風景から新しい創作のインスピレーションを得ているという。他の国からのアーティストや地元のアーティスト、住民と交流し、ネットワークを広げている。世界中から集まる十数名のアーティストと共に滞在することで、グローバルなネットワークを築いている。

欧米と比べて現代アートのマーケットが活発とは言い難い日本の状況で、アーティストの心が折れてしまい、続けにくい雰囲気もあるだろう。そんなとき、AIRは環境を変える契機となるかもしれない。