Written by ART Driven Tokyo

nomoco Broken Information, 2023
ink, acrylic, paper
44 1/2 × 153 1/2 in | 113 × 390 cm
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI

インクならではの質感・透明感、色使いの綺麗さに取り込まれてしまう

インクならではの透明感と、色使いの美しさで知られるnomocoの個展「Organising Chaos」が2023年10月21日(土)から11月11日(土)まで開催され、好評のうちに終了した。ギャラリーは、東京・天王洲のTERRADA ART COMPLEX IIのYUKIKOMIZUTANI。ギャラリーは、まるでアーティストの内部に取り込まれたかのような、鮮やかな色彩とインクの質感で満たされ、ショーは、訪れる観客に心の癒しを与えていた。

Click here for the article in English.

nomoco Sequence, 2023
Ink, paper, wood panel
16 1/2 × 92 9/10 in | 42 × 236 cm
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI
nomoco Dot in blue, 2023
Ink, paper, wood panel
33 1/10 × 23 2/5 in | 84.1 × 59.4 cm
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI
nomoco Untitled, 2023
Ink, paper, wood panel
20 3/10 × 14 3/10 in | 51.5 × 36.4 cm
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI

偶然からの発見、絵の中に飛び込むようなトランス感

View of Organising Chaos
Photo ART Driven Tokyo

なんと綺麗な水玉たちの色、慕わしい丸いかたち! 偶然を生かしつつ、制御もされた水玉のグラデーション、インクの滲み。

展覧会は、nomoco自身の中にある「Chaos」に焦点をあて、窮屈で混沌とした状態を整理するような感覚、頭の中のごちゃごちゃをきちんと並べて整理しようとする感覚、コントロールできないものをコントロールしようとする感覚を表現した。間違いや偶然から生まれる発見、絵の中に飛び込むようなトランス状態、その中に生まれるセラピューティックな色とかたち。

nomocoは福岡県生まれ、セントラル・セント・マーティンズ修士課程を修了後、イラストレーターとして活動。これまで、ロンドン、ミラノ、メキシコシティ、ニューヨークなどで個展・グループ展を行ってきた。自然や音から受けるインスピレーションを元に、インクの不規則な動きを活用して創作を続けてきた。

展覧会は、これまでイラストレーターとして発表してきた作品の一部を発展させ、新たな側面が垣間見える作品群で構成した。以下の4作品は、スケッチブックから。

nomoco 8 Dots with Red, 2021
Ink on paper (80gsm)
11 3/5 × 8 1/5 in | 29.5 × 20.8 cm
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI
nomoco untitled (woman in red dress), 2021
Ink on paper (80gsm)
10 1/10 × 7 7/10 in | 25.6 × 19.6 cm
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI


nomoco tree(letter), 2021
Ink on paper (80gsm)
11 1/2 × 7 9/10 in | 29.1 × 20 cm
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI
nomoco Hello no.6, 2014
Ink on paper (80gsm)
11 3/5 × 8 in | 29.4 × 20.2 cm
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI

静と動、余韻。スケッチブックから続くストーリー 

View of Organising Chaos
Photo ART Driven Tokyo
View of Organising Chaos
Photo ART Driven Tokyo

nomocoにとって、イラストとアートの間に境界はないという。展覧会も、過去のスケッチブックから続くストーリーであるかのように構成されていた。スケッチブックの「裏テーマ」は、はかないセミの一生を女性の物語になずらえたものだという。会場となったYUKIKOMIZUTANIの水谷有木子は、nomocoの作品が、日本画の技法に通じるインクの滲みを生かしていて、海外と日本の美的センスのバランスの良さが卓越していることから、今回の展覧会を企画したという。スケッチブックの女性の顔も髪も、あまりきっちりとは描かず、余韻を持たせている。何より大事なのは、インクの質感である。

nomoco Wisteria, 2019-2023
Ink, acrylic, paper
27 3/5 × 39 2/5 in | 70 × 100 cm
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI
nomoco Organising Chaos (c)(f), 2023
Ink, paper, wood panel
23 9/10 × 63 1/5 in | 60.6 × 160.6 cm
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI
nomoco Blue, Red and Yellow (c)(f), 2023
Ink, paper, wood panel
16 1/2 × 23 1/5 in | 42 × 59 cm
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI
nomoco Blue (c)(f), 2023
Ink, paper, wood panel
14 3/10 × 20 1/5 in | 36.4 × 51.4 cm
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI

「原子のようなドット。流れが少し止まったような表現に行き着いた。絵の中の誰かが外に向かって伝える」

View of Organising Chaos
Photo ART Driven Tokyo

静と動。ほぼ同じ色数で展開される対比が、広がりと癒しを与える。

ART Driven Tokyoは、「チャレンジだった」という今回の個展について、nomocoに質問し、コメントを得た。

ART Driven Tokyo: 水玉でアートを表現する、ということにおいて、どんな発見があったか、どんなプロセスがあったか、聞かせてください。 

nomoco: 普段の私の作品は、サイズが比較的小さめなので、作品を近距離間で見せることが多く、描いた丸の個体差やそれぞれの丸に存在するインクによるオーガニックな表情を表現しやすかったと思います。

しかし、今回のように大きなサイズの絵を広いスペースで展示すると、小さな丸の各個性がスペースの中で消えてしまうので、それをどのように利用するかが、チャレンジのひとつとなりました。結果としてそれぞれの丸を原子のように捉えて描きました

個体差のある丸でも、遠くから見るとひとつの面の単なる一部に過ぎない、または、ひとつの面でも近くで見るとそれぞれユニークな個体が存在している、というような、これまでと少し違う観点からの表現の仕方に至りました。

また、私は普段インクと紙だけで制作するのですが、紙上のインクの流動性や乾燥速度は紙の状態にとても繊細に反応します。今回の個展では、大きなサイズを描くために紙をパネルに水張りしたことで紙の繊維が微妙に変化してしまったようで、インクにも、親しみのない滲みや動きが生まれました。初めはもどかしかったのですが面白くもあり、そこをコントロールする中で、これまでとは違った流れが少し止まったような表現に行き着きました

ART Driven Tokyo: スケッチブックや、制作ビデオのなかで、英語の文字(例:pop!)を、逆さにお書きになっていますが、その理由を聞かせてください。  

nomoco: 文字を逆さに描くのは、学生の頃に、モノタイプ版画のために反転した文字を描いたり、インクワークショップ等で絵の向かいにいる人が字を読めるように逆さに描いたりしていたのが初めだったと思います。

そこで生まれる字体が、絵の中に住んでいる誰かが外に向かって言葉を伝えているような感覚に興味が沸き、何度も続けているうちに今は普通に逆さに描くようになりました。

nomoco Dot in red no.3, 2023
Ink, paper, wood panel
33 1/10 × 23 2/5 in | 84.1 × 59.4 cm
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI
nomoco Queue in pink and blue, 2023
Ink, paper, wood panel
33 1/10 × 23 2/5 in | 84.1 × 59.4 cm
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI

View of Organising Chaos
Photo ART Driven Tokyo
View of Organising Chaos
Photo ART Driven Tokyo

編集部のひとこと

挑戦を続けるnomocoと、常に新しいものを求めるYUKIKOMIZUTANI。共に成長しようという願いで実現した企画展。両者の丁寧な仕事から、パワーをもらった。

Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI

nomoco

福岡県生まれ。

2005年セントラル・セント・マーティンズ コミュニケーションデザイン科 修士課程修了。2003年ロンドン・カレッジ・オブ・コミュニケーション グラフィック&メディアデザイン科 卒業。1999年大阪芸術大学 デザイン科 卒業。

展覧会

2020年 「HangaLabo Ebis版画展2020」、弘重ギャラリー、東京、日本
2019年 「HOME」、フラコスタジオギャラリー、ラ・コルーニャ、スペイン
2019年 「Sound of Waves : The Art of Collaboration」、パークホテル東京、日本
2019年 「Pocko Park : NOWHERE – インクと写真のコラボレーション by nomoco & Martin Holtkamp」 パークホテル東京コリドーギャラリー、日本

2018年 「HangaLabo Ebis版画展2018」弘重ギャラリー、東京、日本
2017年 「FLAG FOR THE EARTH」PostFossilとのコラボレーション、旧植物園、チューリッヒ、スイス
2016年 「TACTILITY : Comtemporary Fashion Illustration」、Pocko gallery、ロンドン、イギリス
2016年「Media Arts Lab」、ロサンゼルス、アメリカ
2016年 「A Chance Tone of Colour」、Pocko Gallery、ロンドン、イギリス
2013年 「Gentleman Practice with Buddy Wakefield」、ファクトリーロード・ギャラリー、ライチェスターシャー、英国
2012年「Small Picture Story」、Vertigo Galeria、メキシコシティ、メキシコ
2010年 「Museum Of Small Things」、セルフリッジ、ロンドン、英国
2010年 「WORDPLAY」、ニューヨーク・タイムズ・ギャラリー、ニューヨーク、アメリカ
2009年 「Metropolis」、Kemistry Gallery、ロンドン、イギリス
2009年 (RED)展、Gap Pop Up Gallery、ニューヨーク、アメリカ
2009年 「Pocko Shoko」、Magma、ロンドン、イギリス
2008年 「Let’s Make Out」、Pocko Gallery、ミラノ、イタリア
2007年 「Detour Exhibition」、アート・ディレクターズ・クラブ、ニューヨーク、アメリカ
2005年 Asylam Gallery、シンガポール


クライアントワーク

Alice and Olivia、アップル、アウディ、カーサ ブルータス、eni、 Harper Collins、Hodder & Stoughton、講談社、Little Tiger Books、Mall at Milenia、マーク・ジェイコブス、モスキーノ、ニューヨーク・タイムズ、ネスレ、ナイキ、ペンギン・ブックス、NSPCC、Portbello Books、Puffin Books、ランダム・ハウス、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー、科学博物館(英国)、Simon & Schuster、the ABRSM、The Telegraph、ガーディアン、Ulpius-ház、ボルボ、ウォール・ストリート・ジャーナル、ワシントン・ポスト、White’s Booksなど。

Books
2021 The World Awaits, story by Tomos Roberts, Farshore Books, UK
2021 Sono fatto così, story by Marta Benoffi, Aquiluna, Italy
2021 Brillantina, story by Marta Benoffi, Aquiluna, Italy
2021 たいせつな気づき – 新型コロナウイルスをのりこえた未来の物語、トモス・ロバーツ 著、大嶋野々花 訳、創元社, Japan
2020 The Great Realisation, poem by Tomos Roberts, Egmont, UK / Harper Collins AU, Australia / Harper Kids, USA
2019 C’era una volta una Goccia – La storia dell’acqua, Edizioni Lapis, Italy
2018 Once Upon a Raindrop, poem by James Carter, Caterpillar Books / Little Tiger Books, UK
2016 Nomoco’s Sketchbook, Pocko, UK

作品リストはこちらで。アーティスト・ウェブサイト:https://kazukonomoto.com/

View of Organising Chaos
Photo ART Driven Tokyo
View of Organising Chaos
Photo ART Driven Tokyo

YUKIKOMIZUTANI

2020年に創設された、成長著しい、水谷有木子が率いる現代アートのギャラリー。水谷は、日本画などオーセンティックなものを長く見てきた経験と、国際的な感覚を併せ持つ。そのセレクションは、ギャラリーの個性と同じく、グローバルかつ日本の美的感覚のバランスが良く、手仕事の丁寧さが際立つものになっている。

取り扱い作家は、山本基、添田奈那、坪本知恵、ヤビク・エンリケ・ユウジ、松本セイジ、横尾忠則、稲葉友宏、能條雅由。

LOCATION & ACCESS

  • 〒140-0002 東京都品川区東品川1-32-8 Terrada Art ComplexⅡ 1F
  • TEL : 03-6810-3885
  • FAX : 03-6810-3884
  • ウェブサイト:https://yukikomizutani.com/japanese/
  • 開廊時間
    火, 水, 木, 金 ,土 : 12:00 – 18:00
    ※展覧会により開廊時間が異なりますので、詳細は各展覧会ページをご確認ください。
  • 休廊 : 日・月

ACCESS

  • 東京臨海高速鉄道りんかい線「天王洲アイル駅」
    B 出口より徒歩約 8 分
  • 京急本線「新馬場駅」
    北口より徒歩 8 分