Written by ART Driven Tokyo

山田周平「EYE」
Courtesy of SOKYO ATSUMI, Photo by Yuji Imamura

ニヒリズムと独自の視点が面白く、美術史好きに刺さる洗練された引用表現。山田周平「目玉焼き」展が、東京・天王洲TERRADA ART COMPLEX IIのSOKYO ATSUMIで開かれている。会期は2023年9月19日から11月23日まで。(会期終了)

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山田周平「EYE」
Courtesy of SOKYO ATSUMI, Photo by Yuji Imamura

目玉も卵もシュールレアリストに愛されたモチーフ

目玉は卵を妬んでいる。

卵は脆く不安定であるその白い球体の内に生命の源を宿しているから。

卵は目玉に憧れている。

⽬⽟はその⽩い球体で直接世界に触れることができたから。⽬⽟は世界に触りうっとりと怯えていた。

両者共、同じ楕円的球体の形状を持つが(睾丸も)、目玉は決して卵にはなれないし、卵は目玉を愛することはできない(目玉焼きはできる)

しかし両者ともシュールレアリスト達にとても愛されたモチーフであることに誇りを持っている。 ―山田周平

Shuhei Yamada “Medamayaki”
Courtesy of SOKYO ATSUMI, Filmed and edited by Hayato Wakabayashi 

ホラー漫画にあるような目玉が描かれた、直径1.5mから2.5m、重りが入った球体が、扇風機の風に揺らされて、右往左往するように動く、バルーン作品「EYE」。AIに「眼球 ゾンビ」などと打ち込んで出てきた目玉の下絵を漫画のようにクローズアップし、何百というなかから選び抜き、それぞれ絵柄が違う目玉をインクで手描きした。この、揺れ動くさまは、現代人が、AIなどの情報に翻弄されている状況と重なる。山田は、作品が奇妙な動きをするように、どのように揺らすか、とてもこだわったという。

山田周平「EYE」
Courtesy of SOKYO ATSUMI, Photo by Yuji Imamura

ヒッチコックの「白い恐怖」にインスパイアされた。独特の距離感とニヒリズム

山田は、アルフレッド・ヒッチコックの映画「白い恐怖」の大きな目のシーンを観て以来、長年、目に注目していて、ずっと目玉の作品を作りたいと考えていたという。「白い恐怖」は、1945年に制作されたサイコスリラー映画だ。この映画の舞台美術の制作には、シュールレアリズムの巨匠、奇才、サルバドール・ダリが協力していた。山田は、ニヒリズムへの関心を背景に、現代社会に対する考察を通じて作品を制作してきており、今回、シュールレレアリズムのアーティストが好んだ目玉をモチーフにして、現代社会を描写した。

山田は京都を拠点として活動しており、東京、ロンドン、ニューヨークなどで個展を開催している。2013年のアーモリーショーでは、唯一の日本人として、当時のアンディウォーホル美術館(ピッツバーグ)館長のエリック・シャイナーにキュレーション部門に選出され、話題となった。写真、ビデオ、インスタレーション、シルクスクリーンと様々なメディアを扱う。時にナンセンスな表情を見せたりしながら、そのブラックユーモアは際立っている。独特の距離感でとらえられた事象は、鑑賞者の理解に微妙な「ずれ」を引き起こし、問いや疑いを抱かせる。

山田周平《EYE.A》2023
バルーンにインクφ200cm
Courtesy of SOKYO ATSUMI, Photo by Yuji Imamura
山田周平《EYE.B》2023
バルーンにインク、φ200cm
Courtesy of SOKYO ATSUMI, Photo by Yuji Imamura

卵と火事。創造と破壊。相反するものをひとつの作品に。挑発的な感覚、ブラックユーモア

山田周平「卵」
Courtesy of SOKYO ATSUMI, Photo by Yuji Imamura

今回は、「意味の違うもの」をひとつの作品にし、対比させるというチャレンジをした。平面作品の「卵」は、生命の誕生と破壊を表現した。卵型のキャンバスに描かれているのは、建物の火事の様子。生命を生み出す卵と、破壊を表す火事。卵が示唆する創造性と、それに相反した破壊的なイメージをひとつのキャンバスに組み合わせ、目玉焼きになる、というブラックユーモア。挑発的な感覚を作品に表現した。卵も、ダリやルネ・マグリットがしばしば取り上げたモチーフだ。色彩は、あえて、ウォーホル的な色にしているようにも思える。

⼭⽥周平《卵.5》2023
キャンバスにシルクスクリーンインク、アクリル絵具、H98×W75cm
Courtesy of SOKYO ATSUMI, Photo by Yuji Imamura

編集部のひとこと

美術史好きが楽しめる、過去の巨匠の引用のセンスが際立つ。現代アートでは、美術史の流れのなかに自分の作品も存在していることを表現する必要がある。技とユーモアを駆使し、歴史の流れにスムーズに着地している。コンセプチュアルでありつつ、楽しい。

山田周平

1974年⽣まれ、京都在住。主な個展にDaiwa Anglo-Japanese Foundation、ロンドン(2019) ;AISHONANZUKA、⾹港 (2017・16・14) ;The Armory Show ニューヨーク (2013) 。主なグループ展に「Positionalities」京都市⽴芸術⼤学ギャラリー@KCUA、京都(2022);「KUROOBIANACONDA 03 SANMAIOROSHI」TEZUKAYAMA GALLERY、⼤阪 (2021);「タグチコレクション Next World 夢みるチカラ」いわき市⽴美術館(2021);「Unclear nuclear」URANO、東京(2016);「Resonance」Sao La Gallery、ホーチミン (2014)などがある。ニューヨークの ISCP レジデンスプログラム(2017)に参加。写真新世紀優秀賞受賞(2003)。作品はタグチコレクション、G foundation などに収蔵されている。

山田周平「EYE」
Courtesy of SOKYO ATSUMI, Photo by Yuji Imamura

⼭⽥周平「⽬⽟焼き」

会期:2023 年 9 ⽉ 19 ⽇(⽕)‒ 11 ⽉ 23 ⽇(木)=予定
SOKYO ATSUMI: 東京都品川区東品川 1-32-8 TERRADA ART COMPLEX Ⅱ 3 階
開廊時間:11:00 ‒ 18:00 (⾦・⼟ ‒ 19:00) 休廊⽇:⽇・⽉

「目玉焼き」展の会場であるSOKYO ATSUMIは、京都のギャラリー「現代美術 艸居(そうきょ)」による現代美術の展示スペース。

■「現代美術 艸居」からメッセージ。

伝統と格式を重んじる街、京都。
王城の文化は、千年にわたる歴史の中で洗練を極め、京で生きる人々は名実ともに長く日本文化の牽引者でした。
更に言うなら、そこで生み出された伝統とは、あまた革新の結果に他なりません。
その証拠に、茶陶を中心とした伝統工芸だけでなく、近代、我が国の工芸刷新運動の萌芽も、京都を舞台とするものでした。
大正末期、楠部彌弌、八木一艸らは、個性の表現を謳いあげ、長い陶工の歴史から、陶芸家として表現の自由を求めて赤土社を結成しました。
それから30年後の戦後まもなく。八木一夫や鈴木治を中心に結成された走泥社は、彫刻的な造形表現とやきものの魅力が一体になったオブジェを発表し、
陶芸界における新しい価値を作り出しました。“前衛芸術”のメッカは、古都・京都であったのです。

ギャラリー「艸居」は、そうした近代以降の造形美溢れるオブジェや陶芸作品を中心に、とらわれのない価値観で、幅広い“美”のすがたを紹介いたします。
また、これからの日本文化を担う方々と、その作品が美術として評価される取り組みを模索しつつ、あらゆる作品を真に価値ある芸術に昇華させる
ギャラリーでありたいと願っています。
京都古門前から「日本の美」を海外に発信し、日本の工芸が世界に自立し、評価されることも私たちの強い願いです。

ウェブサイトhttp://gallery-sokyo.jp/

■ 現代美術 艸居

〒605-0089 京都市東山区古門前通大和大路東入ル元町381-2
TEL     075-746-4456
FAX     075-746-4457
E-MAIL     info@gallery-sokyo.jp
開廊時間  10:00 – 18:00
休廊日   日曜日・月曜日 (盆 ・正月)

■ 艸居Annex

〒604-0924 京都市中京区一之船入町375 SSSビル3F
TEL     080-9745-8452
開廊時間  13:00 – 18:30
休廊日   日曜日・月曜日 (盆 ・正月)

■艸居リスボン LDA

Rua de São Bento 440, 1250-221 Lisbon, Portugal
TEL     +351925552534
E-MAIL     art@sokyolisbon.com

■ SOKYO ATSUMI

TERRADA ART COMPLEXⅡ3階 #304
〒140-0002 東京都品川区東品川1-32-8
TEL     080-7591-5212
開廊時間  11:00 – 18:00(火 – 木)、11:00 – 19:00(金・土)
休廊日   日曜日・月曜日 (盆 ・正月)