Written by ART Driven Tokyo

世界の芸術の都、ニューヨーク。その名に憧れを抱き、海を渡るアーティストは少なくない。久木田成樹氏もその一人だ。多摩美術大学を卒業後、ブルックリンに拠点を構え、ニューヨークで20年間にわたり創作活動を続けている。彼の著書『プロセス主義宣言――現代美術の終焉』(久木田成樹著)は、その経験に裏打ちされたリアルな現代アートの世界を語っている。
本書は単なる芸術論ではない。世界の第一線で活動する一人のアーティストの苦悩と希望、そして問いかけが詰まった、現代に生きる私たちへのメッセージでもある。
憧れのニューヨークは、決して甘くはない。久木田氏が直面したのは、アート作品が株券のように取引され、その質や意味よりも「価格」の方が重視される現実だった。アートが本来持つはずの、自己探求や社会への問いかけの役割は、しばしば市場原理に飲み込まれてしまうという。
SNSの普及により、誰にでも表現の場が開かれているかのように見える時代。しかし久木田氏は、実際には、白人男性で、裕福で、学歴や人脈を兼ね備えた者が依然として有利な構図は崩れていないと指摘する。
特に、パンデミック以降、アジア系に対する偏見や差別の風当たりが強まっている。そのような状況下において、アジア系アーティストとして、自らの立場を明確にすることは、とても重要だ。おとなしいとされがちなアジア人だからこそ、久木田氏のように、意思表示をしていくことが、社会全体の意識変容へとつながっていくのだと、ART Driven Tokyoは考える。
現在、久木田氏はブルックリンにギャラリーを構え、また「Naruki Art Dojo」というスタジオで絵画教育にも取り組んでいる。そこでは、日本の伝統的な修行方法「守破離」の考え方を基盤にした効率的かつ実践的な教育が行われている。実際、アメリカの大学では、教授が学生に十分な指導を行わず、基礎的な遠近法さえ学んでいない学生も少なくないという。本書では、教育現場にも警鐘が鳴らされている。
久木田氏は、アートが過度な経済競争に巻き込まれる現状に強い危機感を抱く。「創作は、自己を見つめ直し、磨き上げるための最適な手段の一つ」――その理念のもと、「プロセス主義」という新たな価値観を提示する。
「資本主義芸術を終わらせよう。仕組まれた自由ではなく、本当の自由を、プロセスを通じて取り戻そう」――このメッセージは、アーティストだけでなく、「海外で働いてみたい」「表現の仕事に関わりたい」と漠然と思っている日本の若者たちにも、一石を投じるだろう。
芸術を志す者にとって、また、変化の時代を生きる私たちすべてにとって、この書は「何のために創るのか」「何を信じて生きるのか」を問い直すきっかけとなるに違いない。
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