Written by ART Driven Tokyo

Installation view from Tomo Koizumi
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI

レディー・ガガ、ビョーク、MISIAといった世界の歌姫の晴れ舞台を彩り、ジョン・ガリアーノともコラボレーションする小泉智貴(Tomo Koizumi)のフリルドレスは、発表当初、驚きを以て迎えられ、ネガティブな見方をする人もいたという。

東京・天王洲のYUKIKOMIZUTANIで初個展「Tomo Koizumi」を開催中の小泉の作品は、なぜ衝撃的なのか。

着る人も作品の一部。服飾史をひっくり返す

Installation view from Tomo Koizumi
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI

小泉は、2011年に自身のブランド「TOMO KOIZUMI」を立ち上げ、2019年にニューヨークでショーを開いた。東京オリンピック開会式での国歌斉唱の際の衣装を担当した。今回の個展は、YUKIKOMIZUTANIのオーナー、水谷有木子からのオファーで実現した。パリコレクションに出品したものと、新作が含まれる。

大学の教育学部で美術を学び、独学で服を作ってきた小泉は、最初から、「保守的」なファッションの流儀から自由だったのだろう。長い服飾の歴史においては、ドレスは人間を引き立て、その人間の富や地位を表すもので、あくまでも人間が主役だ。

一方、小泉のフリルドレスは、着る人間が、作品の一部になり得る。ドレスが、人間と同格か、それ以上の存在になっている。大胆な、根本からの、主客転倒をやってのけたのだ。

そこが衝撃だった。抵抗する人もいたのだろう。歴史をひっくり返すのがアート。当初、驚きと抵抗をもって迎えられたことは、かえって、小泉のドレスの芸術性の証拠となった。

Installation view from Tomo Koizumi
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI

脇役だったフリルを主役に。大胆な転換

Installation view from Tomo Koizumi
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI

主客転倒は、それだけではない。そもそもドレスにとってフリルとは、袖やえりを飾る脇役、引き立て役である。そのフリルを主役に引き上げたところも、度肝を抜く独創的コンセプトなのだと思う。

フリルの解放感。新しいことが待っているような

Installation view from Tomo Koizumi
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI
Installation view from Tomo Koizumi
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI

小泉のドレスは、彫刻と考えたほうがしっくりくるのかもしれない。着てもいいし、着なくてもいい。アートなのだから。

Installation view from Tomo Koizumi
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI

そして、小泉は、なぜ、フリルに魅了され、こだわるのだろうか。

フリルはやわらかい。着ていると、見ていると、どんどん身軽になっていく。フリルをこれだけ集積すると、豪華だし、新しいことが待っていそうな、軽やかさが生まれる。重荷から解放される気持ちになるのかもしれない。

Installation view from Tomo Koizumi
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI

筆者は、2017年に、ニューヨークのメトロポリタン美術館で行われた川久保玲(コム デ ギャルソン)の展覧会を思い出す。川久保玲のコブドレスも、1997年の登場当初は、やはり賛否両論だった。コブのように、いびつに膨れたギンガムチェックのドレスたち。川久保も、醜いとされてきたコブを美に置き換え、美の基準を塗り替えた。川久保のドレスはミニマルアートのようであった。

小泉のフリルによる快挙で、アートとファッションの境界は、あれからさらに曖昧になり、互いを高め合う存在になったことを実感する。

展覧会は、2024年2月10日まで。

Installation view from Tomo Koizumi
Courtesy of the artist and YUKIKOMIZUTANI

小泉智貴(Tomo Koizumi)

2011年、大学在学中に自身のブランドを立ち上げる。2019年初となるファッションショーをニューヨークで開催。2019年毎日ファッション大賞選考委員特別賞受賞、BoF500選出。2020年LVMHプライズ優勝者の1人に選ばれる。2021年東京オリンピック開会式にて国歌斉唱の衣装を担当。2021年毎日ファッション大賞を受賞。

アーティストウェブサイトhttps://tomo-koizumi.com/

■展覧会概要

タイトル:個展「Tomo Koizumi」
会場:YUKIKOMIZUTANI(東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA ART COMPLEXⅡ 1階)
会期:2023年12月19日~2024年2月10日
オープン:12時~18時、入場無料 
※日曜・月曜・祝日休館 
ギャラリーウェブサイトhttps://yukikomizutani.com/