Written by ART Driven Tokyo
コロナ禍に誕生、いま注目のギャラリー。アメリカ人アーティストがディレクター。ハイグレードなショーは東京のアートファンを魅了する
ART Driven Tokyoは、東京の、ユニークで、グローバルで、フラットなセンスを持った、リラックスできて、最高に知的なギャラリーを紹介する。
それはギャラリー・イーサ。同ギャラリーでは10月21日から11月11日まで、ホノルル在住の版画家チャールズ・コーハンの2度目の個展「SNOWBLIND」を開催している。ギャラリー・イーサはコロナ禍まっだだ中の2020年、東京・西麻布に設立された。ディレクターはアメリカ・フロリダ出身のアーティスト、ジェレミー・ストレングスだ。(会期終了)
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登山で網膜を損傷。「視野の欠如」の経験が独特の芸術を生み出した
ハワイ・ホノルル在住の版画家チャールズ・コーハンは、ギャラリー・イーサ主催の2回目の個展「SNOWBLIND」で、光学現象を探求する複数の継続中の版画シリーズを発表した。これらの作品は、紫外線(UV)の浴びすぎによって起こる目の痛み、光角膜炎にかかったコーハン自身の経験からインスピレーションを得ている。
この症状は、角膜と結膜の日焼けのようなもので、痛み、激しい涙、目の痙攣、瞳孔の収縮、明るい光による不快感を引き起こすことが知られている。コーハンが初めてこの症状を経験したのは、若い時に、米国オレゴン州のフッド山に登っていたときだ。そこは、標高2,100メートルの高地だった。継続的に制作されているこの作品シリーズを通じて、彼は網膜の熱傷と光学的な障害の影響について視覚的に考察する一方、同時に、それらを「視覚の欠如」の心理的な比喩的表現として、さらなる考察を深めている。
Frequency Spectrumは、コーハンが過去2年間取り組んできたオープンエディションのプリントシリーズである。すべての版画は、完全にアナログなリトグラフ技法を使って、ひとつひとつ手作業で制作される。このシリーズは、複数の版画を組み合わせてひとつの作品とする、可変サイズのインスタレーションとして機能し、最近では韓国の大邱にある鳳山文化センターで、大きなサイズで展示された。この作品は、人間の知覚の限界に焦点を当てる方法として、意図的に幻惑させるものである。
SNOWBLIND(紙にリトグラフ・インク)は、Frequency Spectrumオープン・エディション・プリント・シリーズのモノクローム作品である。こちらも、すべての版画は、完全にアナログなリトグラフ技法を用いて、ひとつひとつ手作業で制作されている。
これらの作品は、何かが視力を妨げるときに経験する不快感に似たものを、観客に経験させようとしている。観客はこう考えるだろう。「これは現実なのか、それともプリントなのか?」
絶滅した鳥の歌の音波を視覚化した。大きな問題に目と耳を塞ぐ人間たち。失われた鳥たちの歌を聴こう
共同制作のSilenceシリーズの各プリントは、絶滅した種の鳥の鳴き声を視覚化したものである。それぞれの鳥の鳴き声は、シアトルを拠点とする音の考古学者/人類学者ゴードン・ヘンプトンの録音から転写され、2023年11月からハワイ大学でレジデンス・アーティストを務めるアビゲイル・ロマンチャックと共同でコーハンが制作した。
さあ、失われた鳥の歌を聴こう。
安い金属で作られた建物は長持ちしない。人類は、なぜ、目の前のことしか考えられないのか
Rust Printsは「錆びた」紙で作られている。この版画を制作するために、コーハンはハワイの真珠湾の廃品置き場から鉄板を調達した。鉄板を水と様々な薬品で濡らし、錆びさせる。この混合物を数回塗り、最後に紙を貼り、錆が乾くまで放置する。この技法は完成までに2~3ヶ月かかる。
偶然にも、あの不幸なラハイナの火災の直前に制作された
ギャラリーの廊下に展示されている小さな錆の版画は、小部屋に展示されているものと同じ技法で作られているが、錆の上に印刷の要素が加えられているのが特徴だ。印刷された部分は、コ―ハンがコラグラフ技法を使って燃えた建物を描いたシリーズから作られている。このシリーズは、偶然にも、ハワイ・ラハイナの町が不幸にも焼き尽くされる直前に制作された。
街角のカフェのような雰囲気。アーティストと人をつなぐ、新しいスタイルのアートスペース
ギャラリー・イーサは、マルチメディアの現代アートスペースであり、アーティストがそのヴィジョンや探求を開示する場所として、そして、人々が、自己という物語をより豊かに語り、人生を豊かにする自己創造の場所として設立された。
アートが生み出すインスピレーションのもとで、アーティストと人々が互いにつながりあい、対話をつづけるための良き媒介であり続けることが、ギャラリー・イーサのかわらぬ使命。
街角のカフェのような雰囲気だ。会期中、近所の人たちが気軽に立ち寄り、気兼ねなくスタッフとコミュニケーションをとっていた。
地下1階に国内外のアーティストの作品を幅広く紹介する展示スペースがあり、1階には、展示のほか、アートブックを楽しめるコーナーや、アーティストとのコラボレーション・グッズを販売するスペースもある。取材日には、妖怪のフィギュアが飾られ、楽しくワクワクする雰囲気。アーティストと人をつなぐ、新しいスタイルのギャラリーだ。
フラットなセンスが際立つ。性別、出身、知名度、メディア、何ものにも縛られない
ギャラリー名の “ETHER “は「何ものにも縛られない」という意味だという。紹介するアーティストも、性別、出身、知名度、扱うメディアなどにとらわれず、ハイ・アートからアクセシブルなアートまで、フラットな目線で選ぶ。東京のグローバルでリベラルな側面を体現しているギャラリーだ。
取り扱いアーティストは、チャールズ・コーハン、MUEBON、ネルソン・ホー、チハル・ローチ、ジェフ・スティーブンス、アレックス・フェイス、サンテ・ヴィジオーニ、SAKI OTSUKA、片山真理、辻本健輝、奥天昌樹、Kentaro Takahashiなど。
チャールズ・コ―ハン
チャールズ・コーハンは、ハワイ大学マノア校美術・美術史部門版画科を担当する大学教授でもあり、国際的に活躍するアーティストだ。カリフォルニア美術工芸大学を卒業後、クランブルック・アカデミー・オブ・アートにてM.F.A.を取得。コーハンは ‘Arm and Roller Press’ の通称でアーティスト活動を行っており、ホノルルが拠点のLRC(Lithopixel Refactory Collective)の共同創業者としても知られている。Pilchuck Glass Schoolの版画スタジオやカリキュラムのディレクションに20年以上従事する等、チャールズ・コーハンは実際にワークショップで教鞭をとりつつ、コラボレイティブ・プリントメイキング(版画芸術)の分野で国際的に活躍している。
- 1960 Born in America
- 1979-1983 BA Studies in Art in University of Washington, Seattle, WA
- 1983-1985 Bachelor of Fine Art in Printmaking in California College of Arts and Crafts, Oakland, CA
- 1986-1988 Master of Fine Art in Printmaking in Cranbrook Academy of Art, Bloomfield Hills, MI
ギャラリー・イーサ
住所:東京都港区西麻布 3-24-19 三王商会西麻布ビル 1F-B1F
Tel:03-6271-5022
開廊時間:12:00 – 15:00 & 16:00 – 19:00
要予約:祝日、日、月
CONTACT
ディレクター、Jeremy Strength: jeremy.strength@galleryether.com
日本人スタッフ: info@galleryether.com